eternal snow 

「別れよう」
急に周助がそう言った。
「急にどうしたの?な・・・んで?」
心が凍っていくのが分かった。
「他に好きな子ができちゃったんだ」
「嘘よね?しゅ・・・・」
周助の顔はいつもの様に笑っていなかった。
真剣な眼差しで私を見ていた。
「ごめん・・・。最近もうの存在が鬱陶しく感じるんだよ。だから・・・」
その一言は私の全てを奪い去った。
世界の破滅のようにさえ思った。
冷たくなっていく血が私の中で波打つ。
「そ・・・んな・・・・」
「ごめん・・・。取り合えず今日は帰るよ。それじゃあ」
『待って、行かないで。私の傍にいて。ずっと傍にいてくれるって行ったじゃない』
そう、叫びたかった。
だけど、向けられた広く冷たい背中をただ黙って見ることしか出来なかった。
周助は私を見ずに私の病室から出て行った。
『悲しい』
だけど、何故か私は涙が出なかった。
私はどこか心の奥でこうなる事を知っていた。
内心『これでよかった』と思っている自分が存在した。
私はきっと長くて半年しか生きれないだろうということに気付いていた。
だから、いつ死ぬか分からない私が周助の時を止めさせてはいけないと思った。
でも、生きたい!生きて周助の傍にいたい。
だけどそれは・・・、かなわぬ願いでしかないのだから・・・。
ふと、私は思い立って近くにあった紙とシャーペンを手に取り、周助に手紙を書いた。
流れる泪を抑えた分その想いを手紙に書いた。
微かに香るのは周助の優しい香りで・・・、今は冷たい香りだった。
窓の外は白く、雪が降っていた。
もうすぐ周助の誕生日だった。
今日は2月22日、その日はすぐ近くまで来ていた。


本当は今も好きだった。
他に好きな人なんてできるはずがなかった。
だけど・・・・・・。

「すまない。と・・・妹と別れてくれ。いつまでも不二がのために時を止めさせてはいけない」
ふと顔を上げるとそこには暗い悲しみの表情をした手塚が立っていた。
は持って半年しか生きれないんだ」
ついこの間部活の帰りに手塚に周助は言われた。
「すまない」手塚は何度も周助に謝った。
「謝る事ないよ手塚。これで・・・これで、良かったんだよ」
周助は笑った・・・が、笑えなかった。
泪が止まらなくて・・・。
「ごめん帰るね」
足早に帰る不二を手塚は黙って見送った。
「すまない」

外は雪が白く冷たく堕ちていた。


それから、何日も周助とは会っていなかった。
正直、会いづらかった。
だけど、今日は4年に1度の周助の誕生日だった。
外出許可など貰えるはずがないとは知っていた。
だから、病院から黙って抜け出した。

行き先はもちろん青学男子テニスコートだった。
外に出たは上から降ってくる雪に切なくなった。
どこか淡く切ないメロディーが響いているようだった。

病院から青学までは決して近いわけがない。
だけど、は歩いた。
周りの風景を目に、心に焼きつかせるようにゆっくりと・・・。


その日、周助はどこか落ち着かなかった。
何故か胸騒ぎがする。
(ナゼダロウ・・・)
ふと、柔らかい視線に気付き周助が振り返るとそこには、いるはずのない姿があった。
そこにはが立っていた。
でも、手塚も誰一人の存在に気付かなかった。
それくらい、遠くから見ていた。
柔らかく暖かく見守るその姿は、確かにだった。
だが、次に見たときはその場にいなかった。
『きっと幻影だろう』
そう周助が思った。
なぜかいつもは遅くまで部活動をする男子テニス部が今日に限ってやたらと早く切り上げた。
周助は、そんな手塚を不審に思いながら帰ろうとした。
と、そこに手塚が小さく周助に囁いた。
『早く行ってやってくれ』
聞いた時周助は手塚が何を言っていたのか分からなかった。
だが、それはそのすぐ後に知った。
部室を出てまっすぐと正門に向かう。
雪が白く積もった桜並木をゆっくりと歩いていた周助は約1m程先に立って空を見上げている少女を見た。
天使のように美しく立っていたのは、紛れもなくだった。
(手塚、君は知っていたんだね)


「久しぶり。周助」
「・・・・・・・」
驚いて眼を見開いている周助は、何も言えなかった。
「これ・・・。今日周助の誕生日だから・・・・」
次第に影を落とし俯くは少し震えていた。
「・・・・ごめんね。迷惑だったら、捨てて。だけど、どうしても今日渡しときたかったの・・」
「受け取れないよ。言ったでしょ?僕には好きな人が出来たって」
「・・・・そう・・・よね・・・ごめんなさい・・・さよなら」
俯いて言ったは肩を震わせながら走って行った。
が、それを見届けようとしていた周助の表情は急変した。
が発作を起こしたのだ。


僕はどうしてこうなんだろう。
だけど・・・、本当の気持ちを隠しておかないといけないんだ。
そう思って顔を上げると泪を微かに落としたが震えながら走り去っていく。
だけど、僕にはどうする事も出来なかった。
せめて、見届けようとした時に起こった。
それは、の発作だった。
今までに何度か発作を見た事があった。
しかし、今日のの発作は明らかに今までとは違う軽い発作ではなかった。
それは、見て分かる。
いつものあの優しい暖かい光のようなの表情は今や苦悶に歪んでいた。

気付けば僕はの所に走っていた。

!大丈夫!?今救急車呼んでくるから!」
そういった僕の腕をが掴んだ。
「無駄・・・よ。も・・・う・・・助か・・・らな・・・いわ」
僕の心が冷たく凍るのが分かった。
「それより・・・これ・・・・受け取って・・・・ください・・・」
「・・・・・・・・」
僕は何もいえなかった。
の冷たく冷えた指に触れて・・・。
本当はこんなに寒い外で長時間いてはいけなかった。
気付いていたのに・・・ぼくは・・・・。
「しゅ・・・うすけ・・・・。大好き・・・・よ。誰よりも・・・・愛・・・して・・・・る・・・」
不意に力が抜けた腕から四角い箱が落ちた。
・・・・?ずるいよ・・・・。僕まだ言ってないのに先に逝っちゃうなんて・・・」
次から次へと流れ落ちてくる泪はなぜか暖かかった。
「僕も、が大好きだよ。愛してる・・・・ずっと」
それでも、言葉は返っては来なかった。
不意に背後で気配を感じた。
後ろには手塚と・・・・、レギュラー全員がいた。
「手塚・・・、ごめん。結局僕はの事何も・・・・守れなかった」
時間が経つにつれて泪は冷たくなっていく。
「そんな・・・ことはない。見ろ、不二。の安らかな顔を、不二は十分を守ってくれたよ」
ただ、静かな冷たい風が僕等を包み込んでいた。
空から白い天使が降りてくる。
いくつも・・・いくつも・・・。
、見て雪だよ?」
内容とは裏腹に冷たい泪を流しながら僕はに言った。

『大好きよ、周助。お誕生日おめでとう。私の分も幸せに生きて・・・・』

雪に包まれながら僕は雪の声がした。

『大好きよ、周助』

瞳を閉じるとそこには、が微笑んでいた。
いつものあの笑顔で・・・・・。



が僕にくれたプレゼントの中身、それは楽譜と歌詞・・・そして、カセットだった。
手紙が入っていた。
そして、カセットの中身は・・・の歌声だった。
清らかで、美しいの歌声が僕を満たして安らかにしてくれる。
「そういえば、青学の歌姫だったね・・・・・・・」
どこまでも綺麗に響くその歌声を誰もが忘れなかった。


『周助、大好きよ』

「僕も大好きだよ、

僕はしばらくしいつもの笑顔になった。
ただ、どこか悲しい笑顔だった。

(そんな、周助が好きよ・・・・)

「えっ?何か言った、英二」
「不二〜。最近おかしいぞぉ!何にも言ってないじゃん」
「そう?何か今呼ばれた気がしたんだけど・・・」
ちゃんが見守ってくれてるんじゃないの?」
「フフッ。そうかもね」


そういって周助は空を見上げた。



季節はもう春になろうとしていた。



―――――――――――――――――――――――――――――
由貴さんから頂いたドリ夢。
悲恋ではないけどちょっぴり悲しいお話し。
なんだか切なくなりますね・・・・・・・・・・・・・・・
でも結ばれなかった二人は結局は幸せになったんだから、結果オーライ。
て、言ってはいけませんかね。
私はやっぱり生きて幸せになって欲しかったなぁ。と、切に願ってしまうのでした。
私よりも100倍際立つ文才を持つ由貴さんに乾杯vv

return